Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
そしてキッカリ30分の残業で、ノートパソコンをパタンと閉じた私は


「お疲れ様でした、お先に失礼します。」


とまだ残っている千尋や周りの人に挨拶すると、急いで部屋を出た。


エレベーターに向かいながら、私は登録したばかりの、澤城くんの番号を呼び出す。まさかとは思うけど、あんまり待たせて、気分を損ねて帰られても、と思うから気が焦る。


何コールかした後


『もしもし。』


と彼の声が聞こえて来た時は、正直ホッとした。


「ごめんね、今終わった。」


『お疲れ。約束の時間、ピッタリじゃん。さすがですねぇ、先輩。』


と冷やかすように言う澤城くん。


「いえいえ。今、どこにいるの?」


『前のビルの本屋。』


「わかった。じゃ、そっち行くね。」


『ああ。』


電話を切った私の足は、自然と早足になっていた。


エントランスを通って、本社ビルを出た私は、横断歩道を渡って、向かいにある商業施設の集まるビルに。その3階に入っている本屋は、私もたまに利用している。


エレベーターを降り、本屋に入った私が、少しキョロキョロすると、澤城くんの姿はすぐに目に入った。


「澤城くん。」


と声を掛けると、振り向いた澤城くんは、手にしていた本を棚に戻すと、私にサッと手を上げた。


「お待たせしました。」


「いや。さっきも言った通り、約束の時間通りだし、それに本屋なら、俺はいくらでも時間が潰せるから。」


そっか、学校での澤城くんといえば、教室で静かに読書してる姿が目に浮かぶ。相変わらず、本が好きなんだな。


「行こうぜ。」


そんなことを考えていた私に、澤城くんはそう声を掛けると、歩き出した。
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