Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
そして迎えた歓迎会当日。主賓である課長は既に到着。部長以下隣の課からも多くの人が出席してくれた。


ところが、肝心の我が課から欠席者が1人・・・。


「強制じゃねぇよな。」


私が出欠を確認すると、いきなりこう言った澤城くん。


「それはもちろん・・・。」


「じゃ、俺はパス。ちょうど金曜は食事当番だし。」


そんなことを平然と言う澤城くんの顔を、私は思わず見てしまった。


澤城くんは前課長の送別会も来なかった。幹事を務めた1年後輩の子によると「パス」の一言だったそうだ。


普段のただの飲み会じゃない。送別会、歓迎会はやはり1つのケジメじゃないだろうか?


半年とは言え、お世話になった直属の上司とのお別れの場、これから仕える新しい上司との懇親の場というのは、社会で、会社で生きて行く上では、蔑ろにすべきじゃないんじゃないだろうか・・・。


でもそんなことになんか、全く拘らないのが「澤城流」の人生哲学なんだろう。


でも、それでいいの?私は喉まで出掛かったその言葉を口にすることは出来なかった。黙って、去って行く彼の後ろ姿を見送るだけだった。


会自体は、澤城くんの出欠なんかには、全くお構いなしに始まった。


幹事を代表して、木村さんの開会の言葉。続いて部長の歓迎スピーチと、乾杯。


課長は


「ありがとうございます。」


と頭を下げる。会は和やかに始まった。
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