Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
課長は最初の内は、部長や隣の課長と呑んでいたが、1人また1人と課のメンバーがお酌をしに行くと、嬉しそうに迎えていた。


「まぁ、いろいろ最初からかましたから、仕方ねぇとは思ってたけど、歓迎会なしは寂しいなぁとも思ってたんだ。と言って、こっちから歓迎会してくんないの?とも言えないしな。」


なんて笑いながら言ってる。でもそれが別に嫌味っぽくもなく、言われた方もいやぁ、なんて済まなそうにしながらも笑っている。


「まぁ、これは理想論だってわかってますけど、会社の内と外でオンオフはしっかり切り替えたいっていうのは、いつも心掛けてますよ。」


課内に半数以上はいる年上の部下には、キチンと敬語を使って、そんなことを言っているのも聞こえて来た。


やがて課長は、幹事としてバタバタしてて、なかなか課長のところに伺えないでいる、私達のところへ自分の方からやって来た。


「石原、内田。今日はご苦労さん、世話になるな。」


「とんでもありません。」


恐縮している私達に


「呑めないんなら、言ってくれ。」


と確認してから、ビールを注いでくれる。先に上司からお酌をされて、ますます恐縮した私達は慌てて、課長のコップにビールを注ぐ。 


「いいもんだよなぁ。」


「えっ?」


「俺達はあくまで仕事上の付き合いだ。生まれも育ちも年齢も性別も、会社での立場も違う。だけど、こういう場でお互いをさらけ出して、わかり合う。それって実は大事なことで、仕事にも決してマイナスにはならんと思うんだが、古臭いかな?こんな考え。ま、パワハラ、セクハラ系にだけは注意しなきゃいかんけどな。」


「いえ、おっしゃる通りだと思います。」


笑いながら、そう言った課長に頷いた私は、次の瞬間


「課長、申し訳ありません。」


と頭を下げていた。
< 82 / 225 >

この作品をシェア

pagetop