愛しの彼はマダムキラー★11/3 全編公開しました★
第十八章
『電話じゃなんだから、直接お会いしましょう』
谷阿弓にそう言われて、美海はすぐに待ち合わせのカフェに向かった。
カフェには既に谷阿弓がいた。
店員を呼ぶと「紅茶と、このフランボワーズのパンケーキを」と言い、「あなたは?」と美海に聞く。
「私は、あの、同じものを……」
パンケーキを食べる食欲などないが、考える余裕はなかった。
「あの、どういうことなんですか?」
泣きそうにながらそう聞いた。
同情したように、阿弓は力ない微笑みを浮かべる。
「ふたりの関係がどういうものなのか、実際のところは知らないわ。でもね、シキコさんは、歪んでいるにしても星佑を愛している。これは本当」
「でも、あの人は結婚しているんですよね?」
朝比奈シキコは既婚者で、フランス人の建築家の夫がいるはずだった。
「お嬢さん、大人の夫婦には色々な形があるの。お互いそれぞれ愛人がいることが公認とかね。結婚が愛情とは別の、家同士の契約だったり……」
「そんなのおかしいじゃないですか。彼ががんばって大きくしてきた会社なのに、どうしてそんな理由で?」
阿弓はハァっとため息をつく。
「あなたが、『変だ!おかしい!』って騒いだところでどうにもならないのよ」
そう言われて、まるで殴られたように、ハッとした。
ここでどんなに騒いだところで、なにがどうなるわけでもないのだ。
沈黙するうち、紅茶とパンケーキが届く。
阿弓は「美味しそう」と言いながら、パンケーキにフォークを入れた。
押し黙ったままの美海に、阿弓が声をかける。
「それで、どうするの?」
ゴクリと固唾を呑んだ美海は、泣きそうな顔で阿弓に聞いた。
「私が身を引けば、彼は社長のままでいられるけれど、身を引かなければ?……」
「彼は社長ではなくなる」
「そんな……。彼がいなくなれば会社だって」
「設立当初ならいざ知らず、今は人材も集まっているし星佑がなったところで会社が傾くようなことはないわ」
唖然とショックを受ける美海に谷阿弓は言った。
「『ファウンテンS』を離れて一からスタートするもよし、あなたと別れて『ファウンテンS』をますます成長させていくもよし。冷たいようだけど、私はね、どちらでもいいと思っているの。でも私もシキコさんには恩があるから彼女の頼みは断れないわ」
――初めからスタート?
私なんかのために?
そんなことできるわけがないじゃない……。
「わかりました。彼とは別れます」
「相談しなくていいの? 彼は会社よりあなたを取るかもしれないのに?」
「その必要はありません。私はファウンテンSの社長である彼が好きなんです。社長じゃなくなる彼には、興味ありませんから」
そう言うと、美海は黙々とパンケーキを食べ始めた。
もちろんそんなことは嘘だ。
星佑がたとえ無一文になろうとふたりで一緒にいたい。それに、たとえ会社を追われたとしても、星佑はそれで潰れるような弱い人じゃない。必ず困難に立ち向かっていくだろう、そう信じている。
でも、彼が自分のせいで辛い思いをする姿を見るのは嫌だった。
自分のせいで、そんな思いはさせられない。
美海、星佑と別れる決意をする。
――さよなら星佑さん……。
谷阿弓にそう言われて、美海はすぐに待ち合わせのカフェに向かった。
カフェには既に谷阿弓がいた。
店員を呼ぶと「紅茶と、このフランボワーズのパンケーキを」と言い、「あなたは?」と美海に聞く。
「私は、あの、同じものを……」
パンケーキを食べる食欲などないが、考える余裕はなかった。
「あの、どういうことなんですか?」
泣きそうにながらそう聞いた。
同情したように、阿弓は力ない微笑みを浮かべる。
「ふたりの関係がどういうものなのか、実際のところは知らないわ。でもね、シキコさんは、歪んでいるにしても星佑を愛している。これは本当」
「でも、あの人は結婚しているんですよね?」
朝比奈シキコは既婚者で、フランス人の建築家の夫がいるはずだった。
「お嬢さん、大人の夫婦には色々な形があるの。お互いそれぞれ愛人がいることが公認とかね。結婚が愛情とは別の、家同士の契約だったり……」
「そんなのおかしいじゃないですか。彼ががんばって大きくしてきた会社なのに、どうしてそんな理由で?」
阿弓はハァっとため息をつく。
「あなたが、『変だ!おかしい!』って騒いだところでどうにもならないのよ」
そう言われて、まるで殴られたように、ハッとした。
ここでどんなに騒いだところで、なにがどうなるわけでもないのだ。
沈黙するうち、紅茶とパンケーキが届く。
阿弓は「美味しそう」と言いながら、パンケーキにフォークを入れた。
押し黙ったままの美海に、阿弓が声をかける。
「それで、どうするの?」
ゴクリと固唾を呑んだ美海は、泣きそうな顔で阿弓に聞いた。
「私が身を引けば、彼は社長のままでいられるけれど、身を引かなければ?……」
「彼は社長ではなくなる」
「そんな……。彼がいなくなれば会社だって」
「設立当初ならいざ知らず、今は人材も集まっているし星佑がなったところで会社が傾くようなことはないわ」
唖然とショックを受ける美海に谷阿弓は言った。
「『ファウンテンS』を離れて一からスタートするもよし、あなたと別れて『ファウンテンS』をますます成長させていくもよし。冷たいようだけど、私はね、どちらでもいいと思っているの。でも私もシキコさんには恩があるから彼女の頼みは断れないわ」
――初めからスタート?
私なんかのために?
そんなことできるわけがないじゃない……。
「わかりました。彼とは別れます」
「相談しなくていいの? 彼は会社よりあなたを取るかもしれないのに?」
「その必要はありません。私はファウンテンSの社長である彼が好きなんです。社長じゃなくなる彼には、興味ありませんから」
そう言うと、美海は黙々とパンケーキを食べ始めた。
もちろんそんなことは嘘だ。
星佑がたとえ無一文になろうとふたりで一緒にいたい。それに、たとえ会社を追われたとしても、星佑はそれで潰れるような弱い人じゃない。必ず困難に立ち向かっていくだろう、そう信じている。
でも、彼が自分のせいで辛い思いをする姿を見るのは嫌だった。
自分のせいで、そんな思いはさせられない。
美海、星佑と別れる決意をする。
――さよなら星佑さん……。