愛しの彼はマダムキラー★11/3 全編公開しました★
第十九章
シキコとの出会いを星佑は思い返した。
まだ大学生の時だった。
その時すでにシキコは世界でも活躍しているファッションブランド『SIKIKO』のオーナー兼デザイナーで、誰もが知る存在だった。
服飾の勉強がてら全てを吸収したい一心でモデルのバイトもした。そうするうちにシキコと知り合ったのである。
ネット販売を中心としたこの会社を立ち上げる時に、助けてもらっているという過去があって、今でも手厚く接しているが、それでも男女の関係はなかった。
別に誘惑をしたわけではないし、利用しようと思ったわけでもない。
純粋に、経営者として認めてくれているのもだと思っていた。
いや、そう思いたかっただけかもしれないと、星佑は苦笑する。
『私をとるか、あの子をとるか、よく考えなさい』
その場では結論を言わず、シキコと別れてマンションに戻った。
星佑は美海に電話をかけた。
マンションにいるはずの美海がいない。
――え?
何度かけても、『おかけになった電話……』アナウンスが流れて美海は出ない。
メールやメッセージを送るが既読マークもつかない。
「いったいどこに」
――朝比奈シキコから何かを聞いたのか?
星佑は、璃鈴に会いに行った
「えっ? 美海がいない? でもちょっと待って、どうして和泉さんが美海を探しているんですか?」
「事情はあとで説明します。とにかく連絡をとってもらえませんか?」
「……ええ、わかったわ」
迫力に押されながら璃鈴はスマートホンを手にして美海に電話をかける。――が繋がらない。
「不在通知だけだわ」
事情はわからないが、焦ってきた璃鈴は美海の実家に電話をかける。
「あ、叔母さん私、璃鈴よ」
『ああ、璃鈴ちゃんお久しぶり』
「最近美海から連絡あった? ちょっと連絡とりたいんだけど、あの子に電話が繋がらなくて」
『ああ、ちょうどさっき電話があったよ。ちょっと一人旅に出るとか言ってたけど』
「ええ? どこに?」
『それがねぇ、気が向くままにとか言っちゃって。危険だって言ったんだけど、日本の観光地しか行かないもの大丈夫よって』
「あら、そうなの。わかったわありがとう叔母さん」
電話を終えた璃鈴は「一人旅だそうよ。国内の観光地のどこか、気が向くままにって。で? どういうことなのかしら?」
「彼女と付き合っています」
「えっ? なんですって? あなた一体どういうつもりで」
星佑は事情を説明する。
「朝比奈シキコ、あの女、やることなすこと本当にムカつく!」
それからなんの動きもないまま一週間が過ぎた。
星佑のもとにも璃鈴の元にも美海から連絡がこない。スマートホンはいつかけても不在通知のままだった。
その頃、美海は――。
「ありがとうございました」
秋田県のとある山間の温泉旅館で、住み込みの仲居として働いていた。
「美海ちゃん、悪いね、あとで玄関前を掃いてもらっていい?」
「はーい」
電車を乗り継ぎ、ふらりと一人で行った温泉郷で、住み込みの仕事を始めたのだ。
掃き掃除をしながら、ふと山を見る。
――もうそろそろ紅葉するのかなぁ?
山間の温泉地なので、周りは山しかない。
ビルで囲まれている都会とは全く別の景色を見ていると、星佑のことをこのまま忘れられそうな気がしてくる。
――シキコさんに納得してもらえたかなぁ?
昨日、母に電話を掛けた時、璃鈴が心配して電話をかけてきたと言っていたことを思い出す。
旅館の片隅にある売店で、絵葉書を手に取った。
秋田県内の絵葉書でも他の観光地のものを使えばここがわかることはないだろう。
そう思って、璃鈴に絵ハガキを送ることにした。
『元気に働いています。やっぱり客商売が私に向いているのかも』
――これでよしっ。
まだ大学生の時だった。
その時すでにシキコは世界でも活躍しているファッションブランド『SIKIKO』のオーナー兼デザイナーで、誰もが知る存在だった。
服飾の勉強がてら全てを吸収したい一心でモデルのバイトもした。そうするうちにシキコと知り合ったのである。
ネット販売を中心としたこの会社を立ち上げる時に、助けてもらっているという過去があって、今でも手厚く接しているが、それでも男女の関係はなかった。
別に誘惑をしたわけではないし、利用しようと思ったわけでもない。
純粋に、経営者として認めてくれているのもだと思っていた。
いや、そう思いたかっただけかもしれないと、星佑は苦笑する。
『私をとるか、あの子をとるか、よく考えなさい』
その場では結論を言わず、シキコと別れてマンションに戻った。
星佑は美海に電話をかけた。
マンションにいるはずの美海がいない。
――え?
何度かけても、『おかけになった電話……』アナウンスが流れて美海は出ない。
メールやメッセージを送るが既読マークもつかない。
「いったいどこに」
――朝比奈シキコから何かを聞いたのか?
星佑は、璃鈴に会いに行った
「えっ? 美海がいない? でもちょっと待って、どうして和泉さんが美海を探しているんですか?」
「事情はあとで説明します。とにかく連絡をとってもらえませんか?」
「……ええ、わかったわ」
迫力に押されながら璃鈴はスマートホンを手にして美海に電話をかける。――が繋がらない。
「不在通知だけだわ」
事情はわからないが、焦ってきた璃鈴は美海の実家に電話をかける。
「あ、叔母さん私、璃鈴よ」
『ああ、璃鈴ちゃんお久しぶり』
「最近美海から連絡あった? ちょっと連絡とりたいんだけど、あの子に電話が繋がらなくて」
『ああ、ちょうどさっき電話があったよ。ちょっと一人旅に出るとか言ってたけど』
「ええ? どこに?」
『それがねぇ、気が向くままにとか言っちゃって。危険だって言ったんだけど、日本の観光地しか行かないもの大丈夫よって』
「あら、そうなの。わかったわありがとう叔母さん」
電話を終えた璃鈴は「一人旅だそうよ。国内の観光地のどこか、気が向くままにって。で? どういうことなのかしら?」
「彼女と付き合っています」
「えっ? なんですって? あなた一体どういうつもりで」
星佑は事情を説明する。
「朝比奈シキコ、あの女、やることなすこと本当にムカつく!」
それからなんの動きもないまま一週間が過ぎた。
星佑のもとにも璃鈴の元にも美海から連絡がこない。スマートホンはいつかけても不在通知のままだった。
その頃、美海は――。
「ありがとうございました」
秋田県のとある山間の温泉旅館で、住み込みの仲居として働いていた。
「美海ちゃん、悪いね、あとで玄関前を掃いてもらっていい?」
「はーい」
電車を乗り継ぎ、ふらりと一人で行った温泉郷で、住み込みの仕事を始めたのだ。
掃き掃除をしながら、ふと山を見る。
――もうそろそろ紅葉するのかなぁ?
山間の温泉地なので、周りは山しかない。
ビルで囲まれている都会とは全く別の景色を見ていると、星佑のことをこのまま忘れられそうな気がしてくる。
――シキコさんに納得してもらえたかなぁ?
昨日、母に電話を掛けた時、璃鈴が心配して電話をかけてきたと言っていたことを思い出す。
旅館の片隅にある売店で、絵葉書を手に取った。
秋田県内の絵葉書でも他の観光地のものを使えばここがわかることはないだろう。
そう思って、璃鈴に絵ハガキを送ることにした。
『元気に働いています。やっぱり客商売が私に向いているのかも』
――これでよしっ。