愛しの彼はマダムキラー★11/3 全編公開しました★
第三章
〇マンション(昼)
クローゼットに服をしまっていると、スマートホンの電話が鳴る。
今度はTV電話ではなく、璃鈴からの電話だ。
璃鈴「部屋はどう? 気に入った?」
美海「もちろんよ、晃良さんらしいとっても素敵な部屋でビックリ。でもリン姉さん、実は」
そこまで言って美海は言い淀んだ。
クローゼットには高そうなスーツやワンピースがずらりと並んでいる。
美海(晃良兄さんの恋人の忘れ物とか? それにしては新しいような)
それを璃鈴に言っていいのか悪いのか。
晃良と璃鈴は姉弟とはいえ、プライベートのことなので判断がつかない。
美海「ん、やっぱり何でもない」
璃鈴「何よ、変な子ね。ああ、そういえばクローゼットだけど、私が選んだあなたの服が入っているから」
美海「え?! そうなの? キレイな服が沢山あるとは思ったけど、え? どうして?」
璃鈴「どうしてもこうしてもないわよ。いつもの地味な服装で仕事に行くつもりだったの?」
美海「え? そんなに地味?」
あらためて自分自身を振り返る。
昨日は気を使って自分の中のナンバーワンのワンピースを着てきたが、今の格好はTシャツにパンツ。
プライベートの服装は似たりよったりだし、仕事用は主に無難なボックススカートに、無地のシャツかブラウスだ。
確かに、このマンションに暮らすマダムなイメージとは程遠い。
璃鈴「サイズは合うでしょ? 好きなのを着てちょうだい。それを着て来週から早速、Go」
美海「ゴ―? どこに」
璃鈴「決まっているじゃないの。彼の会社よ。書類選考はもう通っているから安心して」
美海「え? 書類? い、いつの間に」
次々と先を言う璃鈴の行動力には、呆れるやら驚くやら。
切ったスマートホンを手に、美海は溜息しかでなかった。
〇居酒屋(夜)
店長「まじで? うわー、ものすごい痛手。でも体が心配だもん仕方ないか」
美海「ごめんなさい店長、迷惑かけてばっかりで」
店長「いいんだよ美海ちゃん、無理言って頼んでたこっちが悪いんだから」
店を出てため息をつく。
美海(これで最後ね)
〇(回想)カフェ、ピザ屋
美海「ごめんなさい!」
カフェ店長「体調悪いんだもんね、仕方ないよ。いつでも戻ってきてね」
ピザ屋店長「まじかー、いやー倒れたって聞いたからさ」
(回想終了)
○歩道
美海(参ったなぁ。それでなくてもどこも人手不足なのに)
しょげ返ってトボトボと歩いている。
と、そこに、歩道をこっちに向かって歩いてくる若い男。
若い男(ヒサシ)「あ、美海ちゃん、これからバイト?」
ヒサシは歳下の大学生。
なめられているのか、なつかれているのか? 美海の方が年上だというのに、ヒサシは、『美海ちゃん』と呼ぶ。
美海「ヒサシ君。ごめんねー、実は私辞めることになってね、いま挨拶してきたの」
ヒサシ「え?!ほんとに? なんだよ、マジかー、美海ちゃん辞めるんじゃ、俺もやめようかなあ」
美海「だめよ!人手不足なんだから」
ヒサシ「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ。腹減っちゃってさー」
ヒサシが指を指すのは、すぐそこにあるバーガーショップ。
美海(なんだか疲れたし、帰ってから夕ご飯作るのも面倒だわ)
ヒサシは一緒にいて気を使うタイプでもない。ヘラヘラして軽く見えるけれども、仕事はキッチリと真面目にこなすところに、美海は好感をもっている。
可愛い弟のような存在だ。
特に断る理由もなかったので付き合うことにした。
○バーガーショップ
ヒサシは威勢よくハンバーガーに齧り付く。
唇についたマヨネーズをものともせず、ペロリと舐めながら食べる様子を見て、美海はクスッと笑う。
ヒサシ「どうして辞めちゃうの? 定職見つけたとか?」
美海「ちょっとね、従姉妹に頼まれたことがあって、そっちをやらなくちゃいけなくなったの」
ヒサシ「ふぅーん」
店を出ると、ヒサシとはスマートホンをフルフルしてSNSを交換して別れる。
ヒサシ「じゃあねー、今度飲みに行こう」
美海「うん、またね」
○オフィスビルの前(朝)
軽く立ち止まった美海は、左手の薬指に嵌めた結婚指輪をチラリと確認して前に進む。
ビルを見上げて気合を入れた。
美海(今日から私は人妻。これは仕事よ)
ロビーに入ると、受付嬢が座るカウンターに向かう。
美海「おはようございます。今日から短期のアルバイトに来た桜井美海と言いますが、どちらに向かえばよろしいですか?」
受付嬢A「はい。二階の第三会議室に行ってください。そこで……」
一瞬受付嬢の視線が動いた。
その視線を追うように振り返ると、エントランスからスラリとした素敵なビジネスマンが入ってきたところが見えた。
美海(あ、もしかして?)
視線を周りに移してみて、ふと気づく。
ロビーにいる人々の多くが彼に注目しているようだ。
美海「あの、あの方は?」
思わず受付嬢に聞いてみた。
受付嬢「この会社の社長ですよ」
美海「あの方が、和泉星佑……社長?」
ハッとして振り返り、あらためてしげしげと彼を見つめた。
美海(やっぱり、あの人がリン姉さんの不倫相手?)
人妻ばかりを狙うというからには、いかにもいかがわしい雰囲気の男と思いきや、
彼は薄っすらと笑みを浮かべた、優しげな好青年にしか見えない美男子にみえる。
クローゼットに服をしまっていると、スマートホンの電話が鳴る。
今度はTV電話ではなく、璃鈴からの電話だ。
璃鈴「部屋はどう? 気に入った?」
美海「もちろんよ、晃良さんらしいとっても素敵な部屋でビックリ。でもリン姉さん、実は」
そこまで言って美海は言い淀んだ。
クローゼットには高そうなスーツやワンピースがずらりと並んでいる。
美海(晃良兄さんの恋人の忘れ物とか? それにしては新しいような)
それを璃鈴に言っていいのか悪いのか。
晃良と璃鈴は姉弟とはいえ、プライベートのことなので判断がつかない。
美海「ん、やっぱり何でもない」
璃鈴「何よ、変な子ね。ああ、そういえばクローゼットだけど、私が選んだあなたの服が入っているから」
美海「え?! そうなの? キレイな服が沢山あるとは思ったけど、え? どうして?」
璃鈴「どうしてもこうしてもないわよ。いつもの地味な服装で仕事に行くつもりだったの?」
美海「え? そんなに地味?」
あらためて自分自身を振り返る。
昨日は気を使って自分の中のナンバーワンのワンピースを着てきたが、今の格好はTシャツにパンツ。
プライベートの服装は似たりよったりだし、仕事用は主に無難なボックススカートに、無地のシャツかブラウスだ。
確かに、このマンションに暮らすマダムなイメージとは程遠い。
璃鈴「サイズは合うでしょ? 好きなのを着てちょうだい。それを着て来週から早速、Go」
美海「ゴ―? どこに」
璃鈴「決まっているじゃないの。彼の会社よ。書類選考はもう通っているから安心して」
美海「え? 書類? い、いつの間に」
次々と先を言う璃鈴の行動力には、呆れるやら驚くやら。
切ったスマートホンを手に、美海は溜息しかでなかった。
〇居酒屋(夜)
店長「まじで? うわー、ものすごい痛手。でも体が心配だもん仕方ないか」
美海「ごめんなさい店長、迷惑かけてばっかりで」
店長「いいんだよ美海ちゃん、無理言って頼んでたこっちが悪いんだから」
店を出てため息をつく。
美海(これで最後ね)
〇(回想)カフェ、ピザ屋
美海「ごめんなさい!」
カフェ店長「体調悪いんだもんね、仕方ないよ。いつでも戻ってきてね」
ピザ屋店長「まじかー、いやー倒れたって聞いたからさ」
(回想終了)
○歩道
美海(参ったなぁ。それでなくてもどこも人手不足なのに)
しょげ返ってトボトボと歩いている。
と、そこに、歩道をこっちに向かって歩いてくる若い男。
若い男(ヒサシ)「あ、美海ちゃん、これからバイト?」
ヒサシは歳下の大学生。
なめられているのか、なつかれているのか? 美海の方が年上だというのに、ヒサシは、『美海ちゃん』と呼ぶ。
美海「ヒサシ君。ごめんねー、実は私辞めることになってね、いま挨拶してきたの」
ヒサシ「え?!ほんとに? なんだよ、マジかー、美海ちゃん辞めるんじゃ、俺もやめようかなあ」
美海「だめよ!人手不足なんだから」
ヒサシ「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ。腹減っちゃってさー」
ヒサシが指を指すのは、すぐそこにあるバーガーショップ。
美海(なんだか疲れたし、帰ってから夕ご飯作るのも面倒だわ)
ヒサシは一緒にいて気を使うタイプでもない。ヘラヘラして軽く見えるけれども、仕事はキッチリと真面目にこなすところに、美海は好感をもっている。
可愛い弟のような存在だ。
特に断る理由もなかったので付き合うことにした。
○バーガーショップ
ヒサシは威勢よくハンバーガーに齧り付く。
唇についたマヨネーズをものともせず、ペロリと舐めながら食べる様子を見て、美海はクスッと笑う。
ヒサシ「どうして辞めちゃうの? 定職見つけたとか?」
美海「ちょっとね、従姉妹に頼まれたことがあって、そっちをやらなくちゃいけなくなったの」
ヒサシ「ふぅーん」
店を出ると、ヒサシとはスマートホンをフルフルしてSNSを交換して別れる。
ヒサシ「じゃあねー、今度飲みに行こう」
美海「うん、またね」
○オフィスビルの前(朝)
軽く立ち止まった美海は、左手の薬指に嵌めた結婚指輪をチラリと確認して前に進む。
ビルを見上げて気合を入れた。
美海(今日から私は人妻。これは仕事よ)
ロビーに入ると、受付嬢が座るカウンターに向かう。
美海「おはようございます。今日から短期のアルバイトに来た桜井美海と言いますが、どちらに向かえばよろしいですか?」
受付嬢A「はい。二階の第三会議室に行ってください。そこで……」
一瞬受付嬢の視線が動いた。
その視線を追うように振り返ると、エントランスからスラリとした素敵なビジネスマンが入ってきたところが見えた。
美海(あ、もしかして?)
視線を周りに移してみて、ふと気づく。
ロビーにいる人々の多くが彼に注目しているようだ。
美海「あの、あの方は?」
思わず受付嬢に聞いてみた。
受付嬢「この会社の社長ですよ」
美海「あの方が、和泉星佑……社長?」
ハッとして振り返り、あらためてしげしげと彼を見つめた。
美海(やっぱり、あの人がリン姉さんの不倫相手?)
人妻ばかりを狙うというからには、いかにもいかがわしい雰囲気の男と思いきや、
彼は薄っすらと笑みを浮かべた、優しげな好青年にしか見えない美男子にみえる。