愛しの彼はマダムキラー★11/3 全編公開しました★
第九章
結局熱い夜を過ごし、
「じゃあね」
「ありがとうございました」
朝方マンションに送ってもらった美海は、茫然としたまま身支度を整えて出勤した。
社長室に入った時には、既に星佑はいない。
朝から会議やらなにやらと忙しい彼とはそれきり、話す機会もないままだった。
夕方美海が席を外した隙に星佑は出かけてしまったらしい。
シキコとのディナーに……。
――あーぁ。
なんだか切ないなぁ。
ぼんやりとして、腑抜けになったようにため息をつきながら機械的に手を動かし仕事をしていると、ピコピコとスマートホンが光った。
ヒサシからのメールだ。
『今晩飲みに行こうよ。新装開店したバーの食事券もらったんだ』
渡りに船とはこのことだろう。
打ち消しても打ち消しても、星佑とシキコが脳裏に浮かんで離れない。夜になればなおさらだ。
今夜はひとりでいたくはない。
『オッケー。行く行く』
――これでよし。
夜十時。
ヒサシと来たバーの化粧室で、ちょっと赤くなった頬をしげしげと見る。
――もぅ、カクテル一杯だけなのに。やんなっちゃう。弱すぎ。
テーブルに戻り、次からノンアルコールにしようと思ったところに声をかけられた。
「ヒサシ、彼女紹介してよ」
「えー。お前に紹介するのなんかやだなー。美海ちゃん。彼、チケットくれたここのバーテンで友達。だけど気を付けて女ったらしだから」
「ミナミちゃんよろしく。ヒサシのほうがよっぽど危ないよ気を付けて。はい、桃のカクテルなんだけど味見してみてね」
「あ、ありがとうございます」
プレオープン中なので客同士も知人が多い。半立食なこともあって店内はざわざわと賑わっている。
「やっほー、ヒサシ、隣の美人紹介してー」
明るいヒサシの友人は同じように陽気な男の子ばかり。しかも会話は上手く、美海を褒めることを忘れない。
「ミナミちゃん彼氏いないのー?」
「やめろよ、これから俺が口説くんだから」
「あはは」
美人だ綺麗だともてはやされれば悪い気はしない。お世辞だろうが褒められればうれしいに決まっている。
――私だってね、こうやって綺麗にしていればモテるんだから。
二週間後、星佑から解放されたその後の未来が、美海には輝いてみえた。
ウフフ。
気がつけば三杯目のカクテルを飲み干そうとしている。
「あはは、美海ちゃん顔真っ赤」
「えーやっぱり? 恥ずかしい」
「大丈夫だよ。可愛い。でも次はノンアルコールがいいかな」
「うんうん。グレープフルーツジュースにしようかな」
「わかった。ちょっとトイレ行ってくるね」
と、ヒサシが席を立ち、グビッとグラスを傾けた美海の視線の先に映ったのは――。
「え?」
カウンターにもたれるように立っている――星佑。
「ど、どうして……」
星佑がまっすぐ美海の席に来る。
「なにしてるの?」
「ほ、ほっといて、自分だってマダムとデートしてるくせに!」
「ん? 現在ひとりだけど? で? どうするの? まだあの男と飲むの? それとも一緒に帰る?」
唇をキュっと噛む美海に、星佑は耳元で囁いた。
「帰らないなら、君の旦那さんに報告しなくちゃね」
「わ、わかったわよ。どうしたらいいの?」
「となりのホテルに部屋をとってある」
彼はコースターに部屋番号を書いて、美海の胸元に差し込んだ。
「首を長―くして、待っているよ」
店を出た星佑に一本の電話が入る。
「はい」
『いま大丈夫ですか?』
声の主は、調査員の男。
「ああ」
『確認したいことがありまして、徳永璃鈴という女はご存知ですか?』
星佑は少し考えた。
「いや、知らない」
「じゃあね」
「ありがとうございました」
朝方マンションに送ってもらった美海は、茫然としたまま身支度を整えて出勤した。
社長室に入った時には、既に星佑はいない。
朝から会議やらなにやらと忙しい彼とはそれきり、話す機会もないままだった。
夕方美海が席を外した隙に星佑は出かけてしまったらしい。
シキコとのディナーに……。
――あーぁ。
なんだか切ないなぁ。
ぼんやりとして、腑抜けになったようにため息をつきながら機械的に手を動かし仕事をしていると、ピコピコとスマートホンが光った。
ヒサシからのメールだ。
『今晩飲みに行こうよ。新装開店したバーの食事券もらったんだ』
渡りに船とはこのことだろう。
打ち消しても打ち消しても、星佑とシキコが脳裏に浮かんで離れない。夜になればなおさらだ。
今夜はひとりでいたくはない。
『オッケー。行く行く』
――これでよし。
夜十時。
ヒサシと来たバーの化粧室で、ちょっと赤くなった頬をしげしげと見る。
――もぅ、カクテル一杯だけなのに。やんなっちゃう。弱すぎ。
テーブルに戻り、次からノンアルコールにしようと思ったところに声をかけられた。
「ヒサシ、彼女紹介してよ」
「えー。お前に紹介するのなんかやだなー。美海ちゃん。彼、チケットくれたここのバーテンで友達。だけど気を付けて女ったらしだから」
「ミナミちゃんよろしく。ヒサシのほうがよっぽど危ないよ気を付けて。はい、桃のカクテルなんだけど味見してみてね」
「あ、ありがとうございます」
プレオープン中なので客同士も知人が多い。半立食なこともあって店内はざわざわと賑わっている。
「やっほー、ヒサシ、隣の美人紹介してー」
明るいヒサシの友人は同じように陽気な男の子ばかり。しかも会話は上手く、美海を褒めることを忘れない。
「ミナミちゃん彼氏いないのー?」
「やめろよ、これから俺が口説くんだから」
「あはは」
美人だ綺麗だともてはやされれば悪い気はしない。お世辞だろうが褒められればうれしいに決まっている。
――私だってね、こうやって綺麗にしていればモテるんだから。
二週間後、星佑から解放されたその後の未来が、美海には輝いてみえた。
ウフフ。
気がつけば三杯目のカクテルを飲み干そうとしている。
「あはは、美海ちゃん顔真っ赤」
「えーやっぱり? 恥ずかしい」
「大丈夫だよ。可愛い。でも次はノンアルコールがいいかな」
「うんうん。グレープフルーツジュースにしようかな」
「わかった。ちょっとトイレ行ってくるね」
と、ヒサシが席を立ち、グビッとグラスを傾けた美海の視線の先に映ったのは――。
「え?」
カウンターにもたれるように立っている――星佑。
「ど、どうして……」
星佑がまっすぐ美海の席に来る。
「なにしてるの?」
「ほ、ほっといて、自分だってマダムとデートしてるくせに!」
「ん? 現在ひとりだけど? で? どうするの? まだあの男と飲むの? それとも一緒に帰る?」
唇をキュっと噛む美海に、星佑は耳元で囁いた。
「帰らないなら、君の旦那さんに報告しなくちゃね」
「わ、わかったわよ。どうしたらいいの?」
「となりのホテルに部屋をとってある」
彼はコースターに部屋番号を書いて、美海の胸元に差し込んだ。
「首を長―くして、待っているよ」
店を出た星佑に一本の電話が入る。
「はい」
『いま大丈夫ですか?』
声の主は、調査員の男。
「ああ」
『確認したいことがありまして、徳永璃鈴という女はご存知ですか?』
星佑は少し考えた。
「いや、知らない」