一緒に歌おう〜国も、色も、血も越えて〜
ユールヒェンのフルートを何度も音羽は聴いたことがある。上手に吹けている。美しい音色だった。

しかし、芸術はただ上手なだけではいけないのだ。生まれながらに持つ音感や、音楽の中に自分の世界を作らなければならない。それは、練習をどれだけ積み重ねても築くことはできない。

ユールヒェンには、その音感がないのだ。趣味としてフルートを吹くことができても、プロとして活動するには厳しい。それを音羽は最初から気付いていた。

しかし、音楽家にならなければならないユールヒェンに「才能がない」など言えるわけがない。

音羽は、ユールヒェンに作り笑いしか浮かべられなかった。



音羽とユールヒェンは同じクラスだが、楽器の授業の時は違う教室に行く。習っている楽器が違うためだ。

「じゃあ、お互い頑張ろうな!」

ユールヒェンが楽譜とフルートを手にし、笑う。音羽は「ええ……」と頷くことしかできない。

いつか、ユールヒェンは気付いてしまうのだろうか?

フルートを習っている友達と廊下を歩いていくユールヒェンの背中を見つめながら音羽は思う。
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