midday crow
消え入るような声で彼が言ったのはそんなことで、紅羽は拍子抜けする。

「手伝ってほしいってこと? いいに決まってるじゃん。なんで言い渋ってたの」

「……光輝への曲だから……」

光輝への?

と訊き返しそうになって口を噤んだ。

怪訝な顔をするにとどめる。

「前のキーボードのために、現キーに作曲してもらうっていうのは、不誠実かなと思って」

「……ふうん?」

普通はまあそうだろうな。

秘密を抱える身としては、いたたまれないのは紅羽のほうである。

自分より以前に彼らを支えていた人物。

その人のために作曲を、というのは、普通は嫌な気持ちになるかもしれない。

前任からしてみても、微妙な気持ちだろう。

少なくとも、無邪気には喜べまい。
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