midday crow
「じゃあくれはさんの話を聞かせてよ」

なんでそうなる。

わざわざ話を逸らしたのに。

紅羽は答えず、アイスコーヒーのカップを持って席を立った。

藤も本気で聞き出すつもりはなかったのだろう、大人しく紅羽の後をついてくる。

目と鼻の先にある駅に紅羽は向かうが、藤は立ち止まった。

「俺、地元だから。高校、徒歩圏内」

「ああ、そうなの」

それじゃあ、と言って別れようとしたのだが、不意に藤が顔を寄せた。

紅羽の耳元に。

「ありがとうございました。じゃあまた」

びっくりしている間にそんなことを囁いて、すぐに背を向けて歩き出す。

なんだったんだ……?

思わず耳に手をやりながら、人混みに紛れた。
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