midday crow
長谷部孝太郎は、野外ステージの裏手でそれを聴いた。

燃えるように激しい太鼓の音。

「おっぱじめやがったかー。アナウンスも待たずに」

一応、紹介のための放送は手配していたが、ガン無視したようだ。

「えっと、セトリ、セトリ……」

白衣をパタパタやると、顧問なので、と雑にもらっていたセットリストが出てくる。

「最初の曲は、“midday crow”、と」

“midday crow”、“wing”、“松明”、“コア”という順に並ぶ文字を目で追った。

その間にも音は激しく入り乱れて、けれどギリギリのところで騒音にはならず、燃え立つように耳に飛び込んでくる。

「──いい曲だな」

誰も聞いていないのに教師らしいことを独りごちて、長谷部はステージ裏を後にする。

どうせならば、聴くだけではなく、その姿もしかと目に焼きつけたい。

あわよくば、微笑んでくれる彼女が隣にいればなおよい。

踏み出す一歩は軽かった。
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