白井君の慰め方
先輩の目を見て答えられた事で、まずはホッと息をついた。良かった。私、成長してる。だったら今日、今この場で言うしか無い。私にはまだ先輩に言うべき事が残っている。
「先輩、すみませんでした」
私の言葉に、先輩は笑顔を控えてジッと私を見つめる。その意味を問われているようだった。
「先輩の事、私、ちゃんと見られてなかったし、先輩の事をちゃんと考えられてませんでした。私は私で一杯になっていて、先輩の気持ちとか、先輩に言われてやっと気づけて、でもそれを謝る事すら、出来てなかった」
最低だ。どんどん蘇ってくるあの頃の光景が私にのしかかってくる。あの時の、黙って俯いたまま先輩の言葉に答えるだけ。先輩を楽しませようなんて気持ちはこれっぽっちも無い、頭の中だけで精一杯な私。でも、
「先輩のお話も、先輩の隣も、楽しかったです。すごく勿体ない、素敵な思い出です」
いつもいつも、ドキドキしていた。傍に居るだけで緊張していたけれど、本当は、本当に、楽しかった。
「ありがとうございました」
それはあの日を越えて、やっと伝えられた言葉だった。ちゃんと目を見て、先輩へ届け。
「本当に、ありがとうございました」
心の奥から出てきた言葉はもう一度、自然な笑顔と共に先輩へ渡っていく。笑顔。笑顔が一緒に、出てきてくれた。こんな穏やかな気持ち、先輩の前では初めてだった。
「なんか楓ちゃん、変わったね」
「…変わりましたか?」
「うん、明るくなった。その人のおかげ?」
先輩が、私の隣に立つ白井君へと目をやる。白井君は黙って先輩を見つめていた。