白井君の慰め方

先輩のことを考えるといつもウキウキして楽しかった。でもやっぱりなかなか会えない。朝は朝練があるし、帰りももちろん部活があるし。思い切って連絡してみたりもしたけれど、やっぱり先輩は忙しそうだったし、そこそこのやり取りで終わってしまった。それでも今、先輩との履歴を眺めてはニヤニヤしている私がいる。だって先輩は私と同じスタンプをちゃんと使ってくれている。

そうだ、今日は体育館に寄ってみよう!

急に思いついてしまった。やるならこの先輩力が漲ってる今しかないと思った。

先輩はバスケ部だ。でも私はバスケのルールに詳しくないし、部活で真剣にやるとなると一体どんな雰囲気になるのかも掴めないでいる。だから今日の放課後は我が校のバスケ部の練習をこっそり覗いて先輩の様子を想像してみる事に決めた。
先輩は他校に通っている為、残念ながらその姿を拝む事が出来ないけれど、でももしここで空気感でも感じられたのなら!そこからはもう、私の漲る妄想力がなんとかしてくれるだろう。そこには自信と信頼がある。

…が、しかしこの作戦。今までも何度か試そうとはしてきたものの、なかなかあと一歩が踏み出せずにいるものだった。もしもだ。バスケ部に知り合いが居る訳でも無い私がこっそり覗いてるのがバレたとしたら…それはもう、場違いな恥晒し状況になるのが目に見えている。
しかもこういう時ってマネージャーが出てきて厳重な注意がされるらしい。そんなの怖い…後日談が痛い…でも、もうやるしかない。

私は決めたのだ。もちろんそんな恥をかくのは嫌だけど、もう先輩を近くに感じるにはこの方法しかない。もしかしたら次に会った時何か良い話題になるかもしれないし、前を向くしかない!

先輩力漲らせた私が目指す体育館は、今居る教室が並ぶ校舎とは別の校舎にある。普段、体育とか集会とかでしか行かないからか、なんだか慣れない感じにドキドキする場所だ。放課後というのも相まって、まるで知らない場所にでもなってしまったかのような妙な緊張感に、なんとなく心も身体も落ち着かない。

だからだろうか。そわそわしながら足早に、勝手に足が向かう。教室の棟と体育館の棟を繋ぐ渡り廊下を通ると、段々近づいて来た練習中の掛け声や、靴と床の擦れる音に更にドキドキが増してきて…

「あ」
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