白井君の慰め方
いつもとは逆の向かい側のホームに並ぶ仲睦まじげな二人。男の方はどう見ても先輩で、女の方は付き合う前から存在を知っていた、先輩の彼女らしき人物で間違いなかった。よく二人で帰るのを見ていたから知ってる。でも付き合うようになった三ヶ月間は一度も見かけてなかったから、だからてっきり別れたものだと…
…そんな事ないか。気付いてた筈なのにそんな訳は無いと目を逸らしてきた現実が、今目の前にあるのだ。夢のような時間は終わり。私は先輩と付き合う事になったけど、先輩の彼女になれた訳ではない。ただの浮気相手になっただけだった。
…どうしよう。どうしよう、泣きそう。
「大丈夫?」
呟くような大きさで聴こえてきた声に、向かい側のホームから切り離せ無くなっていた視線がパッと離れた。声を掛けてきたのはいつの間にか隣に居た、同じ学校の制服の男子。重めの前髪から覗く瞳が心配そうに私を見つめている。
「だ、大丈夫…」
「すごい顔だけど」
スッと伸びてきた彼の手が、私の目元に触れそうな距離で遠慮がちにピタリと止まった。
「もしかして、泣いてる?」
「な、泣いてなっ…」
…ポロリ。
「いや、そのっ、泣いてない、」
ポロリ、ポロリ。
「うっ、あ、ごめん、涙が、」
「…うん」
相槌と共にポンっと頭に乗せられた彼の手をきっかけに、ぶわっと込み上げた涙がボロボロと溢れ出した。止まらない、どうしようと焦っていると、背中に添えられた手がそっと私を電車を待つ列から外れるように誘導する。そしてその先にあったベンチに並んで座り、私は止まらない涙と向き合う時間をそこで過ごした。