白井君の慰め方

「あ、白井」

ガヤガヤと廊下を通る男子の声がする。チラリと目をやるとその中に居た白井君と目が合った。白井君が私に気付いた素ぶりを見せた瞬間、私は彼から目を逸らした。

あぁ、私は嫌な奴だ。

白井君と話したい。でもそれは私がただ慰められたいだけなのだ。そんなの、失礼にも程がある。あれだけ目で追って、話す機会を伺っていた私だけど、それはもうやめた。白井君は良い人だ。仲良くなりたかった。でもそれは白井君にとって良い事ではない。白井君には友達も沢山居るし、私と話す時間は私の為の時間でしかない。飼い犬扱いなんて、そんなの酷すぎる。

ーーそれなのに、なんでだろう。最近すごく白井君に会うようになった気がする。

例えば移動教室の時。授業と授業の合間の僅かな時間。昼休み。更には放課後まで。隙間という隙間に彼の存在が割り込んでくる。
話したりする訳じゃないんだけど、視線を感じるというか、むしろ一瞬でも横切れば感知してしまうというか…あれ?それってもしや私の方の問題?

そうだよね、可笑しいと思った!だって今まで隣のクラスでも全っ然出会わなかったのに、こんな急に目に入るなんて可笑しいもん!目で追ってる自覚があったけど、まさか無意識のうちにも追いかけてるとは!しかもそれをあたかも白井君のせいだと言わんばかりの態度だった私ってほんと最低!根暗!陰湿!

あんな良い人をもう飼い犬扱いなんてしない。私には先輩が居て、先輩に良い思い出を貰ってる最中で、辛い事なんて何にも無いはずだ。友達も居るし白井君を私ごときの為に煩わせてはいけない。もう関わってはいけない。…でも、挨拶くらいはする。

「ま、またねー」

目の前からずんずんやって来た白井君に挨拶をした。何故だろう。遠くからずっと視線が送られていたような気がする。絶対に避けられない何かがビシビシ伝わってきて、さっと横道に逸れる事は許されない雰囲気だった。
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