白井君の慰め方

「早く帰れないのは問題じゃない…」

むしろよくそこに気づいたなと、慌てて考えたにしてもそんな所に気付けるなんて逆にあっぱれだ。そうか。白井君って天然なんだ。

そんなど天然な白井君は、私の発言に先程同様表情は変えないまま瞳をおろおろとさせだして、「ごめん…分からない」と、シュンとして白旗を挙げた。本人も何度も言っていたけれど、白井君は本当にそういう事が苦手らしい。苦手だけど今、なんとか私の言葉から読み取って返事をくれようとしたらしい。そして見当違いな事を返してしまった事が恥ずかしいらしい。

「可愛過ぎる…」
「……」
「あ、いやごめん。ごめんなんだけど、素敵過ぎるよ白井君」

あー、好き。なんて思わず口に出してしまいそうになって慌てて口を閉じる。驚いた。なんだか今日はやけに好きだ好きだと心から想いが溢れる。どういう好きなの？と聞かれたらよく分からないんだけど、とにかく好きなのだ。可愛くて愛おしくて尊いものへ向ける感じの気持ちなのだ。…飼い犬扱いだと言われたこの気持ちは一体何だろう。込み上げて溢れ出すこの想いは、癒されたいとかそういうものじゃない。この想いは、この感情はきっと、

「そういうの良くないよ、彼氏いるのに」

グサッと、一番痛い言葉を突きつけられた。それは今ちょうど聞きたくないけれど向き合わねばならない、一番重要な問題だった。

つまりはそういう事。私は先輩というものがありながら何をしているのだろうか。先輩から良い思い出をもらっている最中だというのに、こんな風に白井君にちょっかいだして構ってもらって喜んで、恥ずかしくないのか。だからダメなんだ白井君に関わったら。こうやって会って話せばどんどん彼に惹かれてしまう。

「…本当、ダメだね。ダメだね私は…」

そう、もう私はダメだ。白井君の事が、好きだ。

「私には先輩がいるもんね。何してんだろうね…本当、嫌になっちゃう」

好きだよ、白井君。その言葉の重みが、もう先程までのものとは違う。安易に口には出せない、重く、怖い、言葉になっていた。