白井君の慰め方
目の前に座った先輩がまず一口、頼んだコーヒーを飲む。先輩はいつも無糖派だ。そして私はいつも紅茶に砂糖とミルクを一つずつ。コーヒーすら飲めない。先輩が好んで飲むコーヒーの美味しさが、私には共有出来ない。
「で、話って?」
チラリと視線を上げた先輩と目が合って、思わずギクリとしてしまった。そう。話があると呼び出したのは私だ。私が話し出さなければ何も始まらない。ジッと先輩のコーヒーを飲む姿を見つめたまま一人の世界に没入し始めていた事に反省した。まだ始まってすらいないのに感傷に浸っていた、恥ずかしい。
「…あの、ですね」
今日まで沢山考えた。もう失敗しないように。もう後悔しないように。傷付かないように、ではなく、傷付けないように。
「私は先輩が好きでした。付き合ってるつもりでした、私なりに。私は私の思う付き合い方を…恋の仕方を、先輩に託してました。それが最低な事だって、やっと気付きました」
「……」
「私は、私の為にしか恋をしてませんでした」
私の恋はいつも脳内での出来事だった。こうしよう、あぁしよう、思いはしても行動に起こせない。先輩を前にすると尻込みしてしまう私は、現実に付いていけないのではなくて、現実を見ようとしていなかったのだ。私は私が一番可愛いかったのだ。いつも受け身で自分から何かを与えようとしない事は、人を傷つける事と同じ事だと気付いてすらいなかった。
「今までそんな事にも気付かないでいた自分が恥ずかしくて、情けなくて…私は先輩にずっと酷い事をしてきました。だからもう、先輩とのこういう関係は終わりにしようと思って、だから今日少し時間を貰って、」
「こういう関係って?」
私の言葉に被せるように、先輩は尋ねた。自分の中に出た答えを説明する事に集中していた私は一瞬何の話なのか分からなくなって、そこに出来た空白でまた自分は自分の為にしか話をしていなかった事に気がついた。