白井君の慰め方

「好きでした。先輩の事は本当に好きでした!」
「付き合ってるとも思ってなかったのに?」
「思いたかったし思ってました!でも、でも信じられなくなった。だって、だって、」

私は好きだった。ちゃんと付き合ってる気持ちだった。でもそこに原因を作ったのは私じゃない。

「私の事を好きじゃなかったのは先輩の方じゃないですか…!」

あの人は誰ですか?私と居て楽しいですか?なんであんまり連絡してくれないんですか?私に足りない部分を私に求めてくれれば良かったのに。話してくれれば良かったのに。私が居ても居なくても何も変わらないくせに。私だけを特別にしてくれないくせに。

今まで言えなかった言葉が散々込み上げてきて、胸がムカムカして仕方がなかった。

「…俺?」

何の話だと怪訝そうな表情でジロリと先輩が見つめてくる。本当に、何も思い当たる節が無いのだろうか。それとも威圧感でなし崩しにするつもりなのだろうか。…そんな事はさせない。だって私は知っているんだ。

「先輩、他に彼女が居ますよね」
「は?いないよそんなの」
「居ます、居ました!私見ました!よく二人で居て、駅のホームで、いつもと逆の方面に並んでたのだって見ました」
「あぁ、誰の事か分かった。あいつは友達だよ」

何の事かと思ったらそんな事か、とでも言いたげな冷めた顔をして、先輩はコーヒーを啜る。…しらばっくれるつもりなのだろうか。そう言えば納得するとでも思っているのだろうか。

「でも付き合う前から有名でしたよ。みんな言ってました、彼女だって。私とは始めから浮気だったんですか?」
「そのみんなって誰?」
「みんなはみんなです。友達です」
「つまり楓ちゃんは俺の話よりそいつらの噂話を信じるんだ」
「……」
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