白井君の慰め方
「まさかようやく向き合ってくれた結果が、好きじゃないから別れようってなるとは思いもしなかったな」
「……」
「言っておくけど、俺は好きだったよ。いつも俯いて、自信なさそうで、でも俺のやる事なす事に急にすごく反応するのが可愛かった。怖がらせないようにゆっくり近づいていこうと思ってたけど…俺の気持ちは伝わってなかったみたいだね」
「……」
…何も、言えない。
「俺たち、やり直せると思う?」
「……」
…なんでだろう、何も言えない。
「ここでもいつものだんまりですか…ま、いいや。俺もなんか疲れたし。性に合わなかったんだよね、こういう付き合い方」
「終わらせてくれてありがとう」
立ち上がった先輩は、伝票を掴むと去って行く。ハッとして俯いていた顔をあげたけれど、その先輩の後ろ姿に声を掛ける勇気が出なかった。カランカランと、店のドアに吊るされた小さな鐘が鳴り、先輩が出て行った事を知らせた。その時気付いた。私は先輩にお礼すら言えていない。…でもそれはもう手遅れだった。私達の関係はもう、これで終わりなのだから。先輩から全てを諦めて切り捨てた瞬間を感じた。きっと今更何を言ったって、何の意味もない。最後まで私は私の自己満足でしか物を考えられていなかったのだった。