白井君の慰め方
「あ…うん、えっと…うん」
平気なの?と、聞かれたら、
「平気だよ、心配してくれてありがとう」
と、答えるしかない。体調が悪い訳でも無い。原因の彼がここに居る訳でも無い。泣いたからスッキリした、なんて、そんな簡単な話では無いけれど、これに白井君は関係無い。
「…そう。なら良いんだけど」
ーーまもなく、電車がまいります
構内にアナウンスが響き渡って、白井君が立ち上がった。ぶわっと風が吹いて、電車が所定の位置に停まる。白井君が電車に乗る為に一歩踏み出して、止まった。
「……相原さん」
人が行き交いガヤガヤとする構内で、白井君が私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「何?」
それになるべく笑顔で答えた。これ以上心配は、迷惑は、掛けられない。…まだ何をどうするかなんて、これからの事を考えられるまでも気持ちが追いついてないけれど、とりあえず時間が経てばもう少しマシになると思うからきっとそれまでの辛抱で、きっともう少しの辛抱で、
「俺、そういうのよく分からないから教えて欲しいんだけど」
急に振り返った彼とジッと目が合い、考え事がピタリと止まった。私に伺うようなていでありながらも、強い意思を感じるその瞳から私は目が離せなくなる。彼の口が、ゆっくりと視界の中で動き出す。
「置いてったらまた泣いちゃいそうな子を慰めるには、どうしたらいい?」
ーードアが閉まります、ご注意下さい
アナウンスの後、彼の後ろで電車のドアが閉まった。乗るはずだった電車が行ってしまった事が分かっていても、私も彼もそこから動かない。動けなかった。ただただ真っ直ぐな彼の瞳が、私を捕らえて離さない。重い前髪から覗く、真っ直ぐで、静かで、深くて、重い瞳ーー
「…きっと、隣に居てあげれば良いと思う」