白井君の慰め方
「先輩とはこういう感じじゃなかったんだ」
「うん」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ緊張して… 先輩と居るとドキドキとキラキラが止まらなかったし、存在が違い過ぎて上手く話も出来なかった。今とは真逆だったよ」
顔も見れないし、いつも嫌われないか心配だったし、慌てて戸惑って勝手に完結して、結局先輩とちゃんと話せたのも先輩の気持ちがちゃんと分かったのも最後の別れ話の時だった。そこでようやく私は本当の先輩を知ったのだ。…あ、そっか。
「先輩の知ってる私も、今の私と違うんだ…」
きっと全然違う。なんかもう、自分勝手で自意識過剰なのは変わらないかもしれないけど、その上のコミュ障の部分が強すぎて…先輩の前では喋ってる方が少なかったからなぁ。自分の中に篭り過ぎていた。あんな素敵な人に構って貰えていたなんて、身の丈に合わない経験だった。
「つまり、それが好きな人の前の相原さんって事だ」
「…うん?」
「で、今の相原さんは俺のファンをしてる相原さん。今まで他に誰かのファンになった事は?」
「え、いや、無い…と、思う…」
「じゃあこれは俺だけが知ってる相原さんだ」
ーー思わず、目を見開いて彼を見た。俺だけが知ってる相原さん、なんて言った彼の言葉に驚いたと同時に、どんな気持ちでそんな事を言ったのかがどうしようもなく気になったからだ。
白井君は笑っていた。悪戯に小さく笑った彼が、なんだか私にはキラリと輝いて見えて、その瞬間ある言葉を思い出す。
『ーー俺の事もあのキラキラした目に一緒に映ってるのかなって。そしたら俺も、少しは相原さんみたいになれるんじゃないかって』