白井君の慰め方
これはもしかして、あの時言っていたキラキラした目ってやつなのだろうか。そうだとしたら白井君は今、楽しんでくれているという事だ。私と私の話なんかをして…いや、今してるのは私の話というより、恋の話?じゃあ俺だけが知ってる相原さん、なんて、それが知れてこんな風に笑ってくれるって、それってもしかして…いやそんなまさか…でももしかしたらもしかする事も…
唐突に成り立ってしまった私にとって都合の良い仮説。いやいやないない。恋愛脳のアホ女が抜け切れてないんだ情けないぞと言い聞かせるも、襲い掛かる期待の嵐にどう対処すればいいのかも分からない私。をさて置き、さぁ帰ろうと歩き出すどこか満足気な白井君。どうやらこれでこの手の話題は終了らしい…て事はやっぱり白井君にとって深い意味は無かったのかと、少し落胆。私の中ではこんなにもドキドキが止まらないのに。
向かう先は同じ駅だ。同じホームで同じ電車を待つ白井君が、静かに私の隣に立つ。まるで何事も無かったかのようにあっさりといつもの顔で立っている。あまり表情に出さない彼のクールな横顔を、私はこっそり覗き見てはうるさい心臓と付き合う羽目になった。そしてたまに「何?」と私に視線を送ってくる白井君に、ワクワクしながらどうでもいい話題を振るのだ。
このドキドキする感覚は先輩の時と同じ、恋をしてる私のもの。でもあの頃の私とは違い、こんなに気楽で、こんなに楽しい。これはきっと白井君が相手だからだと思う。気負いせず自然体で出会った白井君との恋はきっと、温かくて、柔らかくて、私を慰めるように包んでくれるような感じなのだろうなと、きっとそうなんだろうと、到着した電車の座席に座った瞬間、隣で目を閉じてしまった白井君を見て思った。寝てしまう自然体が可愛い。嬉しい。愛おしい。
私は今、あなたに恋しています。
脳内でどれだけ言い訳してどれだけ違う方向へ向かっても、結局辿り着くのはここだった。ファンで良い、ファンが良い、そう思うのに、それだけじゃないでしょうと見ないように仕舞い込んだ恋心がまた大きくなる。
白井君と私の関係はファンと推しメンが丁度良い。恋愛なんて向いてない。恋はするべきでない。だったら恋に似ている憧れに置き換えてしまおうと思ったその気持ちは、結局また恋の名前を取り戻してしまった。
やれやれである。もう一体どうしろというのだろう。