白井君の慰め方

先輩は、部活の朝練がある日はすごく早くて、無い日はすごく遅い電車に乗っている。最寄駅が同じだけど他校に通う先輩の情報は、いつも先輩と同じ高校に通う友達が居る友達に教えて貰っていて、本人に直接聞いた訳では無いから先輩は私が知ってる事を知らない。こっそり情報を得る事が生きがいになっていた時期もあったりしたけれど、今だに直接本人に確認しない私はきっと相当根暗でストーカー気質なんだと思う…それがバレて引かれたら怖いから先輩には言えていないけど。

「そっか。予定があるんですね」

そう私言うと、

「うん」

と、先輩が答えて、それでおしまい。本当は何の予定があるんですか?って聞きたかった。でもうん、としか答えてくれなかった先輩に迷惑に思われるのが嫌で深く踏み込めなかった。いつもそうだ。直接の彼を前にもう一歩の勇気が出ない。あと一歩を彼に委ねてばかりいる。

私、何で先輩と付き合ってるんだろう。なんで付き合えてるんだろう。

ぐるぐるぐるぐる、どんどん暗い気持ちに沈んでいく。先輩に嫌われたく無い。あの時のキラキラした気持ちが忘れられない。恋が報われたあの感覚が、手放せない。

「大丈夫?」

覗き込む先輩の視線にハッとした。既視感があった。でも違う、今私を覗き込んでいるのはあの日の彼ではない。

「なんか元気無いね。最近暑いから?」

首を傾げる先輩に、笑って「大丈夫ですよ」と、答えた。先輩と、あの日の彼ーー白井君が重なった事に動揺してしまって、気まずさに視線を逸らす。何故か悪い事をしているような気持ちになった。別に私と白井君は何の関係も無いのに。

それからしばらくは、無言のまま向かい合って過ごす事になった。ガタゴトと揺れる車内で、ドアに寄りかかる先輩とその前で俯いて佇む私。気まずさから生まれた今の状況に更に気まずさが重なってそっと顔を上げてみると、それがちょうど先輩がスマホを取り出したタイミングと同じで、あぁ、もう私と話す気持ちは無いのかなともう一度俯いた。私とよりも先輩はスマホの先に居る特別な人達と有意義な時間を過ごすのだろう。

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