白井君の慰め方
「今日の帰りも待っててくれる?」
隣にしゃがむ彼から覗き込まれた際に上目使いで問われて、真顔で「あ、はい」と答えるのがギリギリ精一杯な対応だった。「なんで敬語?」と、クスクス笑われた。そんな白井君はとても楽しそうだった。
「いつも待っててくれるの嬉しいんだ。ありがとう」
あぁ、ルンルンでお花を飛ばして告げてくるその台詞の破壊力よ…!もう直視出来ない程に白井君は輝いていた。後光が目に滲みる。思いっきり頬をぶん殴られたい。とりあえず現実の確認と幸せの代償を払わせてもらいたい。
「とりあえずこれ手伝うよ。軍手借りてくる」
そう言って先生の方へ向かっていく白井君の後ろ姿をぼうっと眺めていた。スラリと高い背は背筋が伸びていて、線の細さが繊細で素敵。華奢に見えるけど本当は運動部の分だけ筋肉がついてるんだ、きっとみんな知らない。いや、私も知らないんだった。見たことないのに見えてるような気持ちになっていた。これは本当に気持ち悪いやつ、ごめんなさい。
勝手な妄想に罪悪感。私は脳内妄想が得意なストーカー気質の根暗女な訳だけど、白井君は本当に私でいいのだろうか。白井君はこんな私の事を知ってるっちゃ知ってる訳だけど、今までを振り返って私だったら私みたいな女は願い下げだ。関わりたくも無い。何より情緒が不安定過ぎる。だって、
「借りてきた…あれ?相原さん全然進んでないじゃん」
「俺も頑張るよ」と、「だから一緒に頑張ろう」と、ただ単に白井君を眺めて妄想していたから手が止まっていただけの私を、元気がないと捉えたのか励ましながら手伝ってくれる白井君はもはや神々しくて、こんな陰気で欲にまみれた私には目を合わせる事すら出来なかった。
そう。これはあの禁断症状が出て来る気配…なんて不安定なんだ、付き合ったんだと自覚した途端のコレだ。緊張して喋れなくなるなんて、白井君とはそういう事が無かったのに。いつも穏やかで温かいんだろうな、なんて思ってたはずなのに。これでは先輩の時の二の舞だ。これで傷つける事になるなんて嫌だ。