白井君の慰め方

「こ、こんなの間違ってるって分かってるんだけど、先輩と白井君は違うって分かってても、こう、彼氏なんだって思ったらまたなんか違う気持ちがこう…こんな対応は間違ってるって、分かってはいるんだけど」

あれ?今まではどうやって話してたっけ?そんな事も分からなくて口だけが勝手に回る。なんだか目がぐるぐる回ってきた気がする。地面がふにゃふにゃする気がする…なんて事を、ピタリと口を閉ざした後、しゃがんだ両膝にぺったり額を乗せて思った、その時だった。

「ごめん、感極まった」

それは、白井君の声だった。自然と顔を上げて、「かん、きわまった」と、意味を理解出来ないままに言葉を繰り返し、あ、感極まったか。と漢字が見えた頃にもその理由が分からないままだった。ついでにポカンとした顔も終始そのままだ。きっと口は開いていたと思う。

そんなだらしない顔を曝け出す私に、白井君は微笑みかけた。それはとてつもなく大切なものへと向けるような、慈愛のこもった表情だった。

「間違ってないよ」
「…?」
「その対応で、間違ってないよ。だってそれは好きな人に見せる相原さんでしょ?なら合ってる」
「……」
「ありがとう、俺の事を意識してくれて」
「……うん」

ーーそれからは、無言でお互い草をむしった。何あの二人どういう関係?という謎の視線を周りからひしひしと感じたけれど全部無視だ。そんなの関係ない。とにかく私は幸せだった。

だってこんな事ってあるだろうか。私の嫌いな私の部分を、こんな風に包み込んでくれるなんて。先輩と上手くいかなかった根本的な理由、人と付き合っても上手くいく筈のない理由、私が人を傷つけてしまう理由、だから白井君との関係を求めないようにしていた、一番の理由。それが今、姿を変えて現れた。こんな未来を誰が予想出来ただろう。

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