二人を繋ぐ愛の歌
思えばハルトにとって、沙弓は初めから不思議な人だった。

整った顔立ちを見ても目の色を変えず、プライベートの姿を見ても拒絶せず、正体を明かしても態度を変えない。
沙弓は今まで出会った人達とは全く違い、それが急激にハルトの興味をひいた。

会えば会うほど気になる。
話せば話すほど一緒にいたくなる。
一緒にいればいるほど触れたくなる。
たまに見せる柔らかい笑みと言葉に胸が高鳴る。

ハルト自身の手で今までたくさんの恋に関する曲を書いてきたのだから、この状態が何なのかなんて誰に聞かなくても分かってしまった。

恋をしたーー。

その現実にハルトは頭を抱えた。

野望を達成するまでは特別な存在を作らないと決めていた。
それなのに沙弓に恋に落ちてしまった時にはまだ先が見えない頂点に焦り戸惑ってしまった。

そして沙弓のすぐ近くには恋敵とも言える男がいる。
ボヤボヤしてなんかいられなかった。

ハルトの正体に惑わされることなく中身をしっかり見ていてくれるのは、後にも先にも恐らく沙弓だけ。
誰にも渡せない、渡したくないと決意を新たにハルトはシャワーのレバーを強く捻ったのだった。
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