二人を繋ぐ愛の歌
「南尾さん!」

「あ、嶋川さん、大丈夫だった?」

「はい、大丈夫でした。
あの、待っててくれていたんですか?」

驚いて近くまで駆け寄ると南尾は困ったように微笑み頷いた。

「Shineのマネージャーの人から嶋川さんのことは大丈夫だって聞かされてたんだけど、やっぱり気になって……」

そう言いながら南尾は沙弓の後ろ、陽人の方へ視線を向けると何やら躊躇してから真っ直ぐ陽人の方へと足を運んだ。

「……今日、嶋川さんにはハッキリと振られました」

何の脈絡もなくそう言い放った南尾に沙弓は驚くが、陽人は何の反応も見せずにじっと南尾を見ていた。
そんな陽人の様子に気分を害することなく、南尾は沙弓に初めて見せる挑戦的な笑みを浮かべた。

「でも、もしあなたに嶋川さんが泣かされるようなことがあれば……その時は俺が遠慮なく彼女を奪うつもりですから、そのつもりでいてください」

そう宣言した南尾に陽人は辺りを見回し、他に誰もいないことを確認してから長い前髪を掻き上げて素顔を現した。

「……万が一、沙弓を泣かすようなことがあっても他の男に奪われるつもりはないから」

南尾を真正面に見据えてそう言った陽人の正体に気付いたらしい南尾は目を見開いていた。
そんな南尾の横を堂々と横切ると陽人は再び前髪で顔を隠して沙弓の手を取った。

「……もしかして……」

信じられないとでも言いたげな南尾の唖然とした呟きに陽人はフッと微笑むと、そのまま振り返ることなく沙弓の手を引いて歩き出す。
沙弓が慌てて後ろを振り返ると、立ち尽くしていた南尾が不意に眉を下げて笑みを浮かべたのに気付いて頭だけ下げて陽人についていった。
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