二人を繋ぐ愛の歌
「信用って……」

「沙弓、うちの得意先はちょっとばかり特殊でな。
ミーハーな奴やSNSだったか?そんなもんをやってる奴や口が軽い奴は雇えないんだ」

「私だってやってますよ、SNS。
家族や仕事の人との連絡用だけど……」

「そう!だからお前が適任なんだよ!……っ!!」

言いながら勢いよく抱き枕を叩いた振動が腰に来たのだろう。
激痛に耐えているらしい叔父を若干呆れた眼差しで見ていたら叔父は痛みのせいで涙目になりながら、いいか、よく聞け。と言ってきた。

「友人との連絡はそう取らず、取っても職場の人間か家族だけ。
他人に興味がないから顔と名前を覚えず、流行りの芸能人なんかの知識も皆無。
そんなお前が一番信頼できるんだ!」

「絶対褒めてないですよね!?」

「雇う側としては限りなく褒めている!」

全く褒められた感じがしないくて沙弓が眉を寄せていると叔父は、だから頼む!と再び頼み込んできた。

「……無休で働く私のメリットは?」

「賄い弁当をつけよう!好きなおかずを好きなだけ盛り合わせて、好きな弁当を作る沙弓専用の賄い弁当だ。
手伝いのない平日も来て三食貰ってくれて構わない。
一人暮らしにネックな食費が大分浮くぞ?」

食費の事を言われると沙弓は反論することも出来なかった。
ニヤニヤしながら言ってきた叔父と期待を込めた眼差しの叔母の顔を順番に見て、負けた。と思った沙弓は深く息をつくと、わかりました。と渋々頷いた。

こうして沙弓の暫しの不休労働が始まったのだけれど、弁当屋【多幸】の得意先を知って驚いたのはそれから数日後の初手伝いの時だった。
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