二人を繋ぐ愛の歌
「俺の父親も母親も芸能人でさ、人が多いところは勿論、こういう賑やかな場所も滅多に来れなかったんだ」

「へえ……ご両親も芸能人なんですね」

「結構有名で、Kaiser(カイザー)って言うアイドルユニットの越名勇人(こしなゆうと)とモデルの越名陽菜(こしなひな)って言うんだけど……知ってる?」

アイドルのKaiserと言えばデビューから数十年経った現在も尚、人気が衰えることなくアイドル界の頂点に君臨しているShineのライバル的存在で、モデルの陽菜はCMやあらゆる雑誌によく出ていて見かけない日はないくらい有名で女性の憧れの的だった。

両親の話を終えた陽人は沙弓の反応を伺うかのようにじっと見つていたのだけれど沙弓はその視線に気付くことなく、何もない斜め上方向を見ながら暫く思考して徐に口を開いた。

「……お名前はなんとなく……」

その言葉と僅かながら気まずげな表情で両親のことも本気で知らないのだと気付かれたのだろう、陽人は俯いて肩を揺らし笑いを堪えていた。

「何なんですか、さっきから!」

「いや……本当に君ってすごいなって……」

Shineの事も陽人の両親の事も本気で知らなかったことに多少罪悪感があるので沙弓は怒りながらも陽人からは視線を然り気無く反らしている。

陽人はそんな沙弓を宥めながらも笑いを止めることはできなかったようだった。
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