二人を繋ぐ愛の歌
「……沙弓はさ、全然態度が変わらなかったよね」

「態度?」

「すっごい目立たない地味な格好して前髪で顔を隠してた時も、顔を見せた時も……芸能人だって知ってからも接し方が全く変わらなかった」

そう言いながら陽人が此方に視線を寄越したのを視界の端で捉えて沙弓は少し考えた。

元々芸能人を含め他人に興味がないからShineであるハルトの凄さも分からず接していられただけで、もし沙弓が少しでもShineの存在を知っていたらまた態度が違っていたのかもしれない。

けれど実際沙弓はそっち方面は全く無知であっ たため、何の反応も示せなかった。
やはり芸能人やアイドルにとって知名度が何より大事なのは沙弓でも分かるので、沙弓の態度に不満があるのかもしれないと思った。

「えっと、世間を騒がすアイドルとしては複雑……ってこと?」

「いや、逆にすごく好感が持てるんだよね」

何故好感なのだろうと沙弓が一瞬視線を向けると、長い前髪の隙間から陽人が熱を込めた眼差しを向けているのに気付いた。

「ねえ、朝陽君が余計な事言ってなかった?」

「えっ……と……わざわざ私を指名して配達させたのに偶然を装ったり、陽人が注文したお弁当が一つ多いっていうミスはわざとだったりっていうのは全部、陽人が私とゆっくりお弁当を食べたかったんだろうなって言う秋村さんの推測の話のこと?」

「やっぱりすごい余計な事言ってる……しかも、悔しいことに合ってるし」

そう言いながら陽人は苦笑していたけれどもその苦笑もすぐに止み、またすぐに先程のような眼差しを向けてくる。

その眼差しを受けて沙弓は落ちつかない気分になっていたら丁度赤信号で止まった車の中、ハンドルを握っていた手の上に陽人の手が乗せられた。
< 77 / 284 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop