二人を繋ぐ愛の歌
ザルだと宣言していた沙弓はそれからいろんな酒を水のようにどんどん呑んでいった。
陽人も明日は久々にオフらしく、普段呑めない酒を美味しそうに呑んだり気になったメニューを頼んで二人でシェアしたりしてお互い楽しんでいたところに思わぬ邪魔が入った。

「……っていうことがあってさ」

「ええっ!?それで陽人はどうしたの?」

尽きることのない会話のなんてことはない雑談。
気になる続きを促して陽人が口を開こうとしたその時、偶然隣を通った女性二人がチラッとこっちを見たかと思うと突然吹き出して笑い始めた。

「ちょっと、あの人“はると”って名前なんだって!」

「嘘ー!?Shineのハルトと同じ名前なの?かわいそー!!」

明らかに侮辱した言い方でプライベート用のボサボサ頭の長い前髪で顔を隠した黙っていれば陰気な雰囲気の今の陽人を見下す。

それが周りにアイドルだと気付かれないように変装している姿だと知らずに、その女性達の口は思ったことを口に出していった。

「完全に名前負けだよねー。
それにあの頭!すっごいボサボサだし、顔も隠してるし、すっごい不細工だったりしてー」

「やだ、もうー!!一緒にいる人の気が知れないし!アノヒトモハルト君の事見習って整形でもなんでもしたらいいのにねー」

「同じ名前のハルト君に迷惑だよねー」

かなり酔ってるらしい二人組は、恐らく自分達が思っているよりも大声で笑っていた。

何か反応せざるを得ない言葉があったのか、ずっと黙っていた陽人がピクッと反応して顔を上げようとしたけれどそれよりも早く、沙弓は咄嗟に立ち上がるとテーブルに置いていた水を女性二人に目掛けて勢いよくかけた。
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