溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「あたしの本音としても、修ちゃんに跡を継いでほしいの。でも、修ちゃんにはまったくその気がない。『兄貴のほうが向いてるだろ』なんて言うのよ」
柔らかい笑みを携えて笑う拓さんは、どこか寂しそうだ。
「柚ちゃんから言ってくれない? いい加減家に入れって」
「わ、私はドクターとしての篠宮先生が好きです。患者さんに誠実で、どんなときでもまっすぐで仕事に対して真面目で、自分に自信がたっぷりで。患者さんはもちろん、周りのスタッフや他の科のドクターからも信頼されてるし、人としてすごく尊敬しています。その篠宮先生がドクターでなくなってしまうのは、とても寂しいです。だから、言えません」
思わず身を乗り出して語っていた。なにもこんなにムキにならなくても。拓さんは驚いたように目を瞬かせて、やがてクスクスと笑い出した。
「あっはっはっ! やーねー、冗談よぉ、冗談! 柚ちゃんったら、熱くなっちゃって。かわいいわねぇ」
「じょ、冗談……」
「柚ちゃん、気に入ったわ。いえ、ひと目見たときからこの子ならって思ったわ。修ちゃんのこと、よろしくね」
「そう言われましても……」
恥ずかしくてゴニョゴニョと口ごもる。視線を下げたそのとき、頭に軽い衝撃が走った。