溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「嬉しいよ、柚がそんなふうに思ってくれていたなんて」
「し、篠宮先生っ!」
ニヤリと笑う意地悪な顔を見て、すべて聞かれていたということを悟った。
「ひ、卑怯です、突然後ろにいるなんて」
「それを言うなら柚だって」
「え?」
「『好きだ』なんて、俺より先に兄貴に打ち明けるとは思わなかったよ」
そこだけ聞いたら、まるで私が篠宮先生に恋をしているみたい。そういうニュアンスで言ったわけじゃないのに、拓さんまでなぜかニヤニヤとからかうような笑顔を見せた。
「修ちゃんへの熱い想いを、あたしの胸にもしかと刻んでおくわ」
「ち、ちがいますよ。そういう意味で言ったんじゃありません」
私が好きなのは、あくまでもドクターとしての篠宮先生なのだ。
「あーら? 本当かしら? あたしには素直に打ち明けてくれちゃってもいいのよ?」
「なんで俺より先に兄貴なんだよ」
そんなふうにふてくされる篠宮先生はまるで子どもみたいだ。その様子を見て拓さんもさらに目を細めた。
篠宮先生のことを想ってることがそこからひしひしと伝わってきて、仲のいい兄弟なんだろうなと肌で感じる。
「柚、そろそろ出よう」
私が最後のひとくちを飲み終えたタイミングを見計らい、篠宮先生はジャケットに袖を通した。
そして私に向かって手を差し伸べる。
迷いながらもその手をつかみ、スツールから下ろされる。