溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
からかうのもいい加減にしてほしい。そうでないと心臓が持たないというか、心臓に悪いよ。
恥ずかしくてうつむいていると見覚えのある風景が目に入った。目の前にそびえ立つ高級マンションは、前にもきたことがある篠宮先生の住まい。
さも当然のごとくエントランスのほうへ向かうので、私は思わず目を丸くする。
「えっと、どこへ?」
「家だけど」
「では、私は電車なので帰りますね」
手を解こうとすると、今度は腕を引き寄せられた。
「今夜は帰さない」
耳元で色っぽく放たれた艶めいた声に、ドキッと心臓が跳ねる。さすがに私もそこまでバカではない。
この言葉にどんな意味が含まれているのかわかっているつもりだ。篠宮先生はきっと、そういう意味で言っているんだよね。
一度目のときは強引さに負けてしまったとはいえ、なにもしないと約束してくれたし、実際になにもなかった。けれど、今回はそういうわけにはいかないだろう。
「頭でいろいろ考えているみたいだが、俺は柚が嫌がることは絶対にしない。ただ、もう少し一緒にいたいだけなんだ」
切実な表情でそんなことを言われたら、このまま帰るなんて言えなかった。