溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
彼の顔色を見ている限り、重大なことでもしでかしたのではないかと不安になる。
「どうして勝手にいなくなったりしたのかと言ってるんだ」
「え?」
もしかして、今朝逃げ帰ったことを言ってる?
ムッと唇を尖らせる篠宮先生はまるで子どもで、ここが院内だということなんて気にも留めていないようだ。
「今度ゆっくり聞かせてもらうからな」
大胆発言をして去って行く篠宮先生の後ろ姿を、ポカンとしながら見つめる。
「ちょっとちょっと! なによ、今のは。意味深すぎるんだけど」
爽子が興奮気味に声を上げた。
「べ、別になんでもないからっ!」
「そんなふうには見えなかったわ、さっさと白状しなさい」
必死の形相の爽子がテーブルから身を乗り出して詰め寄ってくる。
「本当になんでもないって。それじゃあ、私はそろそろ行くね」
こんな曖昧な私たちの関係をどう説明しろっていうのよ。そう言いたい気持ちをグッとこらえる。
トレイを返却してからレストランを出ると「あ、日下部さんっ!」と病棟の看護師長に呼び止められた。
師長はふくよかな身体つきをしていて基本的にいつもニコニコしている穏やかな人。
けれど今は血相を変えて明らかに様子がおかしい。
「なにかあったんですか?」