溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
院長が助け舟を出してくれたこともあり、あれからすぐ病棟に戻った私は、当然だけれど業務どころではなくなってしまった。
ナースステーションに戻るなり、一斉に浴びせられるたくさんの視線。
それだけで私が院長室に呼び出されたのは周知のことなのだと悟った。
「日下部さん、いったいなにがあったんですか?」
はつらつとしたひとつ下の後輩、横川さんが詰め寄ってきた。横川さんだけではなく、その場にいた全員が耳をそばだてていることが雰囲気で伝わってくる。
はぁ、とんでもないことになってしまった。
「柊製薬のお嬢様が乗り込んできたって聞いたんですけど」
もうそこまで話が出回っているの?
院内は広いとはいえ世界は狭い。きっとあっという間に話は広まってしまうだろう。
「なんでもないわ、さっ、仕事仕事!」
気を取り直して明るく言い放ち、院内スマホで患者さんの容態をチェックする。
このあと午後の部屋回りとバイタルチェックと検査への送り出しがあり、終業まであまりもたもたしていられない。
「山田さん、傷の痛みはどうですか?」
数日前、緊急オペをして通常よりも入院が長引いている山田さん。歩行開始直後、ドレーンからの排液に感染兆候が見られ、抗生剤を投与するもなかなか治まらず、さらにはオペとは関係ない感染からの発熱があり、それが今日やっと落ち着いたところだ。