溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「なにかあったのか?」
部屋回りを終えてナースステーションに戻る途中で、後ろから腕を引かれた。
驚いて振り返ればそこには真剣な表情を浮かべる篠宮先生の姿。
「さっき院長室から出てきただろう?」
「え、あ……」
見られて、いたの?
「ちょうど副院長室に用があってね」
「なんでもないです」
「またそうやって強がる」
「強がってなんかいないです……っ」
そう言った瞬間、ふわっとした温もりが全身を包んだ。篠宮先生の腕が私の身体をきつく抱きしめる。
「あ、あの」
「俺じゃ頼りないか?」
「え」
「柚の力にはなれないのか?」
「…………」
色っぽくて艶のある切なげな声が全身をかけ巡る。胸の奥底が熱くなって、どうにかなってしまいそう。
「俺は柚のことが好きだ。だから、力になりたい」
「こ、ここは病院ですよ」
「かまわない。柚にははっきり言わないと伝わらないからな」
ドキンドキンと破裂しそうなほど心臓が大きく高鳴る。こんな時に告白なんて、ズルい。
私情に篠宮先生を巻き込むわけにはいかない。それに、こんなこと言えるわけがない。疑われているなんて、知られたくない。
「ご、ごめんなさい、まだ仕事が残っているので」
拒絶するように胸を押し返すと、篠宮先生の腕は簡単に離れた。
そしてそのままの足でナースステーションに戻り、呼吸を整えた。