溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
夜になると街路樹がライトアップされ、イチョウの木は昼間とちがった顔を見せている。
地下鉄を乗り継いでたどり着いた都会のオフィスビルの一角にある大きな建物、そこはMIYAMOの本社ビルのエントランス。
たかだかとそびえ立つビルを前に、大きく息を吸い込む。覚悟を決めてきたとはいえ、緊張しているのはたしかだ。
いつもはお団子にしている髪を下ろして、気合いを入れた大人っぽいOL風コーディネートで決めてきた。スーツ姿の彼に負けないようにという、せめてもの意地だ。
正直言っていい思い出はない。できれば二度と会いたくなかったし、もう関わりたくもなかった。それでもどうしても我慢ができなくて、こうしてきてしまった。
現在十九時過ぎ。定時を過ぎているが、ビルの中にはたくさんの人が行き交っているのが外からでもわかる。
スーツ姿の人がエントランスから出てきて帰路に着くのを見守りながら、目的の人物を探すが出てくる気配はない。
寒空の下、三十分ほど経過したときだった。
一台のタクシーが道路脇に寄せられ、ドアが開いてひとりのスーツ姿の男性が降りたのが見えた。
遠目からでもわかる、あれはまちがいなく優だ。