溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
お母さんが驚いた顔で私を見る。
「そんな人、いないわよ。変なこと言わないでよね、お父さん」
「なんだ、ちがうの?」
明らかにガックリと肩を落とすお母さん。これ以上ここにいると、早く身を固めろだの孫の顔を見せろだの言ってくるにちがいない。
実際、実家に帰ってきてから数日が経つけれど毎日のように同じセリフを言われてきた。
心配してくれているのはわかるけれど、今の私には追い打ちをかけられているようにしか思えず、肩身の狭い気分になる。
「私、ちょっと出かけてくる」
「そ? 気をつけてね」
「はーい」
両親にはなにも話していない。話したところで心配させるだけだし、たまたままとまった休みが取れたとだけ伝えてある。
生まれ育ったこの町は周りは田んぼばかりで遊ぶところもロクにないけれど、それでも故郷に帰ってくるとホッとするのも事実だ。
なにもない田んぼ道を歩きながら、すぐそばを流れる川の音に耳をすませる。
山の方から冷たい風が吹いて、葉っぱがざわざわと揺れている。喧騒だらけの都会とはちがう、静かでゆったりとした風景。
なにも考えたくないのに、ひとりでいるとどうしても思い出してしまう。
私、これからどうなるんだろう。
病院に戻れるのかな。戻れたとしても、しばらくは好奇の目にさらされるだろうな。
胃がキリキリと痛む。食欲もなくて、こっちに帰ってきてからというもの、ご飯がほとんど喉を通らない。
そんな私の異変を両親は感じているのかいないのか、毎日食べきれない量のご飯を出してくれるけれど、残すのも申し訳なくて心もとない。
そんなことを考えているといつの間にか田んぼを抜けて、車一台がギリギリ通れるほどの道に出た。