溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
周りは見渡す限り山しかなくて、もちろん車も通らない静かな場所。もう少し進むと川が見えて、高校生の頃はよくそこで友達と寄り道をして、なにをするわけでもなく、他愛ない話をしてたっけ。
「うわぁ」
叫び声とドサッという鈍い音がどこからか聞こえた。
なんだろう?
声のしたほうに慌てて走り寄ると、遠くで地面に尻もちをついている男の人の姿があった。
「いってぇ」
「だ、大丈夫ですか?」
どうやら木から落ちたのか、ところどころ擦りむけた跡がある。どことなく見覚えのある顔に考えこむこと数秒。
「もしかして、真也?」
「柚か?」
お互いに目を見開きながらほぼ同時に口にした。
久しぶりに見る真也は高校生の頃よりも大人っぽくなっていたけれど、顔の輪郭や体型はほとんど変わっていないからすぐにわかった。
「久しぶりだな、なにやってんだよ」
「それはこっちのセリフよ。なにやってたの、こんなところで」
「木の上に猫がいてさ。どうやらこいつ、降りられなくなってたみたいなんだよ」
視線を落とすと、真也の膝の上で抱かれている猫の尻尾が見えた。
「猫を助けて木から落ちるなんて、真也らしいわね」