溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「だろ? なんか放っておけなくてさ。あ、こら、お前、待て」
猫は真也の膝の上から素早く降りると、こちらを振り返ることもせずにどこかへと逃げていった。それを残念そうに見ている真也の横顔は、まるで子ども。
「久しぶりに会ったのに、変わらないよね、真也は。変わったのは坊主じゃなくなったことくらいじゃない?」
今は見事なまでの黒髪を流行りのツーブロックにして、スッキリ爽やかな印象。スポーツをしていたから体格もガッチリしてるし、背だって高い。
「そういう柚だって、変わらないだろ」
「そ、そんなことないよ。ちょっとは女らしくなったもん」
「はは、どこがだよ」
悪態をつきながら笑う真也の笑顔に懐かしさを覚える。真也が口元を手で覆ったのを見てハッとした。
「手、傷だらけだよ? もしかして、さっきの猫に引っかかれた?」
「え? あー、そういえば抱きかかえるときにやられたような」
「大変!」
「ちょ、おい、柚」
真也の手を引っ張って立たせると、その腕を引いて足早に帰路に着く。
わけがわからずされるがままだった真也は、最初は戸惑うように声を上げていたけれど、私の必死な姿に次第になにも言わなくなった。