溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「ちょっとしみるよ」
消毒薬がたっぷりしみたティッシュを引っかき傷に押し当てる。
「いってぇ……! もっと優しくしてくれよ」
真也は涙目になりながら恨むような目で私に訴えた。
「男がめそめそしないの」
「うう、優しくないな……」
「猫引っかき病っていう病気もあるくらい、怖いんだからね。菌が身体に入って炎症を起こすと、入院しなきゃいけない場合もあるのよ? 幸い、傷口は浅いみたいだから心配ないとは思うけど。もし万が一なにかあったら大変でしょ」
「ふはっ、相変わらず心配性だな」
真也は事の重大さをわかっていないのか、ケラケラ笑うだけだった。
六畳間の狭い部屋の中、こうして真也と向き合っているとなにが現実なのかがわからなくなってくる。
「俺、柚の心配性なとこが好きだったわ。地主の息子っていう目で俺を見ずに対等に接してくれるところも、何事にも一生懸命なところも」
「だって、真也は真也でしょ? 生まれた時からの私の幼なじみで、野球バカ。昔はよくうちのお兄ちゃんと一緒にキャッチボールして遊んだよね」
ふと蘇る昔の思い出。あの頃は楽しかったなぁ。
子ども時代の思い出を共有している友達は、大人になってからできた友達とはちがって、長い間会わない時間があっても、一瞬で昔に戻った感覚になる。
すごく安心させられて、頼もしくて、心強い。
「やっぱり地元が落ち着くなぁ」