溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「消化器外科のナースの日下部さんってご存知ですか?」
柚の名前が出たことで、とっさにパソコン画面から視線を外す。
「日下部さんがどうしたって?」
「あ、いや、これはただの噂なんですけど、柊製薬の会長の怒りを買って、クビになりかけているとかいないとか。実際、ちょっと前に院長室に呼び出されていたらしいです」
杉山さんの言葉にふと一週間以上前のことが頭をよぎった。シアトルへの学会の件で副院長に呼び出されたとき、偶然院長室から出てくる柚を見かけた。
「なんでもない」と言いながら小さく震えていた柚の姿を思い出す。表情を強ばらせ、なにかに耐えるように唇をきつく噛んでいた。
いつもは強気な柚が、そのときだけは今にも折れてしまいそうなほど弱々しく儚げで、とっさにその身体を思いっきり抱きしめていた。
守ってやりたいと、強く思わされたのだ。こんな気持ちは初めてだった。
今まで仕事にしか興味がなく、一流の医師になりたくて最先端のアメリカで技術を学んできた。医師免許取得後も寝る間も惜しんで医学に触れ、目の前の患者と向き合い、患者にとってなにが一番最善なのかを考え、提案する。
人の生死に関わる医師としての仕事は想像以上にハードで苦しかったけれど、元気になって退院していく患者の笑顔を見るとその苦しみは一瞬で吹き飛んだ。