溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜

「し、篠宮先生」

粉雪のような白い肌に、うっすらピンク色の唇。潤んだ瞳が俺の姿を捉え、大きく見開かれる。

「悪い、見るつもりはなかったんだが」

「い、いえ、大丈夫です」

このときの柚は必死に俺から顔を背け、泣いてるのを見られたくないのか力なくうつむいた。

頭の低い位置で結んだお団子が風になびいて揺れ、柔軟剤の香りだろうか、爽やかでスッキリしたような匂いが漂ってきた。

「先生はあれでよかったとお思いですか?」

そっぽを向きながら訊ねてくる柚は、明らかに不服そうな口調でムッと唇を尖らせる。さっきのカンファレンスのことを言っているのだとすぐにわかった。

「不運な偶然が重なった結果だ。誰にも予測はできなかった。それが彼の運命だったんだよ」

「それは、そうかもしれませんけど。でも、私は歯がゆいです。なにもできずに、ただ見守っていることしかできないなんて。悔しいです。なにかできることがあったんじゃないですか?」

「どうにもならないこともある。きれい事だけじゃ、やってけないのも医療だ」

先日他院からの紹介で入院してきた六十二歳の男性患者。胃癌のステージ四で、腹膜播種(はしゅ)やリンパ節への転移が見られる末期の状態だった。

本人は余命宣告を受けても当院でのオペを希望していた。

家族もこの時点ではオペを希望しており、少しでも長生きしてほしいと涙を流していたのは、つい二週間前のことだ。

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