溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜

冷たい?

俺が?

自分が優しい人間だとは思ってないが、冷たい人間だとも思っていなかった。というよりも、今までそんなことを考えたこともない。

「さっきのご家族の気持ちを思うと、悲しすぎます……」

「いちいち感情移入していたら、仕事にならないぞ」

「やっぱり冷たい……どうしてそう冷静でいられるんですか」

彼女はさらに唇を尖らせながら、そう悪態をついた。まともに話すのは初めてだったけれど、真剣なその表情からは患者や家族を大事に想う気持ちがひしひしと伝わってきた。

「医者が冷静さを欠いたら、誰が患者を助けるんだ?」

柚はそれ以降黙り込み、反論してはこなかった。きっと彼女も、頭ではわかっているのだ。

医療者としての意見ではなく、女性は感情でものを言う。こうと決めたら譲らず、ブレない柚のひたむきさは、一緒に仕事をするようになってよくわかった。

患者のささいな変化を見逃さず、病態や疾患からアセスメントした正確な情報をわかりやすく的確に伝えてくれるセンスは群を抜いている。

疲れた顔を一切見せず、患者の前では常に笑顔。

非常階段で顔を合わせたのはその一度きりだったが、それから柚のことがやたらと目に入るようになり、俺なりに彼女を観察して得た情報からアセスメントした結果。

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