溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
疑問に思いながら階段を降りるスピードをわずかに早めた。
「あ、やっときた。お客さんだって言ってるのに」
「そんなに急かさなくてもいいでしょ。手が回らないほど忙しいわけでもあるまいし」
文句を言いつつ、スニーカーに履き替えてお店に顔を出す。
「店のお客さんじゃなくて、柚にっていう意味よ」
お母さんの言葉を聞きながら、遠慮がちな表情でそこに立つ人物に目が釘付けになる。まるで夢でも見ているかのようだった。
「あの、突然申し訳ありません」
目の前の人物、天音さんは私に向かって深々と頭を下げた。突然の来訪者に目を丸くして固まることしかできない。
いったい、なにがどうなっているというのだろうか。
「柚さんがその、お仕事をお休みされていると聞いて……それで、私、居ても立ってもいられなくて」
彼女は視線を下げたまま申し訳なさそうに言葉を続ける。両親の目があるため、戸惑いつつも私は天音さんを部屋に上げることにした。
「ごめんなさい、散らかっていますけど適当に座ってください」
築三十年以上も経つ古い家屋。私の部屋はフローリングではなく畳だ。恐らく天音さんには驚くような狭い部屋なのではないだろうか。
その証拠に物珍しい表情でキョロキョロと辺りを見回している。