溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「え?」
「母も忙しい人だったから、手料理というものはほとんど食べたことがない。家ではいつもシェフが料理していたしな」
修さんはそう言って寂しそうに笑った。これまで順風満帆な人生を送ってきたんだと思っていたけれど、その笑顔を見ていたら複雑な気持ちになった。
そんな顔、しないでよ。
「これからですよ」
修さんの手を両手で包み込む。
「これから家庭料理の味を知ればいいんです。わ、私が、ちゃんと作りますから」
なんて恥ずかしいことを言っているんだろう。でも本音だ。修さんの顔を見ていたら言いたくなった。
「ははっ、それはプロポーズとして受け取っても?」
「プ、プロポーズ?」
そういうつもりで言ったわけではないのに、修さんは私をからかうようにニヤリと笑っている。悔しいくらいに、魅力あふれる笑顔だ。
どうやら私は、この笑顔に弱いらしい。
「いいですよ、そう受け取ってもらっても」
「そうか、わかった」
え?
なにが?
そう疑問に思ったときにはすでに遅かった。
「お父さん、お母さん」
お客さんが減ってだいぶ落ち着いた店内。修さんはキッチンにいる両親に向かって声をかけたかと思うと、急に椅子から立ち上がった。