溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
お昼を過ぎると陽は高く上り、肌寒かった朝の空気がウソのように暖かみを帯びてきた。もう冬がすぐそこまできている。
かじかむ手をこすり合わせながら、そこへはぁと息を吹きかける。寒いのは苦手だけど冬は嫌いじゃない。
朝の深々とした澄んだ空気が特に好き。冷えた身体を熱々のお風呂に入って温めるのも最高の幸せ。
「本当に帰らないのか?」
「はい、私は明日までこっちにいます」
「二十四時間も会えないなんて、耐えられないんだがな」
車に乗り込んだ修さんをお見送りするために玄関先にいるけれど、車はなかなか発進しようとせず、名残り惜しそうに寂しげな顔が運転席の窓から覗いていた。
「そんなこと言わないでください。明日はちゃんと帰りますから」
そんな顔をされたら、今一緒に帰ってもいいかなって流されそうになる。
でも、まだ帰るわけにはいかない。修さんが美味しいと言ったお父さんの料理を伝授してもらうまでは。
家庭の味に慣れ親しんでいないと言っていたし、これからのためにもレパートリーは多いほうがいいだろう。土手焼きや金平ごぼうや簡単な煮物はレシピがなくても作れるけれど、手の込んだ逸品となるとそうはいかない。