溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「こ、こないで」
「大人しくしてたら、優しくしてやるよ」
一気に距離が詰められたかと思うと、強引に手首を掴まれ乱暴に引き寄せられた。近くにあった椅子に当たって、膝が割れそうなほどの衝撃を受ける。
「い、嫌だってばっ!」
爪が食い込んでいるのではないかと思うほど掴まれたところが痛くて眉間にシワが寄る。手の力は弱まることなく、あまりの痛さに涙がにじんだ。
「まだ篠宮先生と続いてんのかよ。しかも、婚約ってマジだったんだ?」
エンゲージリングに気づいた優がそう吐き捨てる。
「人の縁談を破談にしといて、自分だけ幸せになろうってか?」
なにを言ってるの?
私じゃないわ!と思いっきり叫びたかった。でもこれ以上神経を逆撫ですると、どういう行動に出るのかがわからないし、怖い。
「は、離してっ!」
「大人しくしろ、殴られたいのか?」
腹部に拳が当てられて、これ以上騒ぐなと脅された。騒げばきっと、拳が飛んでくるのだろう。恐怖から全身がカタカタと震えて、立っているのがやっとの状態。涙で視界がボヤけて前が見えなくなった。
「ふんっ、最初から素直に大人しくしてりゃいいんだよ」
「ふざけるな!」
怒り任せの低く鋭い声がした。
優の身体が声の主によって私から引き離される。
とっさのことに驚いたのか、私の手首を掴む指の力がゆるんだそのすきに思いっきり腕を振り払った。
そして、そこに立っている人を見て言葉を失う。
そこにいたのは修さんだった。