溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
それを見ただけで恐怖が蘇り呼吸が苦しくなった。でもここで負けてはいられない。大丈夫よ、落ち着け、私。
「よくそんなことが言えるな。一部始終見ていたんだぞ。きみのしたことは、まともな男のやることじゃない」
「ぐっ」
意表を突かれた優は悔しそうに顔を歪めた。見ないようにしていても、視界の端にちらちら入ってくるから表情がわかってしまう。
「こ、この女が悪いんだ! 天音をそそのかして、男と逃げるように仕向けたんだぞ! 人の幸せの邪魔をしやがって!」
もはや、なにを言っているのかわからない。でも、もしかすると天音さんは私の言葉で駆け落ちを決めたのかもしれないと思うと、他人事のようにも思えなかった。
「幸せ? ふざけるな。人を傷つけることしかできないきみに、他人を幸せにできるわけがないだろ。天音さんがどうしてそう決意したのか、自分の頭でしっかり考えろ」
「その女が悪いんだ。天音は従順で大人しい女だったのに。感情なんか持たず、黙って俺に尽くしてりゃ幸せになれたんだ」
「本気でそう言ってるのか? だとしたら、ありえないな。誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなど、本当の幸せとは言えない。自分の失態を責任転嫁して柚になすりつけるのはやめろ」